『史記』項羽本紀を読んでみよう:その17

その16(http://d.hatena.ne.jp/T_S/20180902/1535814092)の続き。





楚左尹項伯者、項羽季父也、素善留侯張良
張良是時從沛公、項伯乃夜馳之沛公軍、私見張良、具告以事、欲呼張良與倶去、曰「毋從俱死也。」張良曰「臣為韓王送沛公、沛公今事有急、亡去不義、不可不語。」良乃入、具告沛公。沛公大驚曰「為之奈何?」張良曰「誰為大王為此計者?」曰「鯫生説我曰『距關、毋内諸侯、秦地可盡王也』。故聽之。」良曰「料大王士卒足以當項王乎?」沛公默然曰「固不如也、且為之奈何?」張良曰「請往謂項伯、言沛公不敢背項王也。」沛公曰「君安與項伯有故?」張良曰「秦時與臣游、項伯殺人、臣活之。今事有急、故幸來告良。」沛公曰「孰與君少長?」良曰「長於臣。」沛公曰「君為我呼入、吾得兄事之。」張良出、要項伯。項伯即入見沛公。沛公奉卮酒為壽、約為婚姻、曰「吾入關、秋豪不敢有所近、籍吏民、封府庫、而待將軍。所以遣將守關者、備他盜之出入與非常也。日夜望將軍至、豈敢反乎!願伯具言臣之不敢倍紱也。」項伯許諾。謂沛公曰「旦日不可不蚤自來謝項王。」沛公曰「諾。」
於是項伯復夜去、至軍中、具以沛公言報項王。因言曰「沛公不先破關中、公豈敢入乎?今人有大功而撃之、不義也、不如因善遇之。」項王許諾。
(『史記』巻七、項羽本紀)


項羽陣中の項伯登場。彼は張良とは挙兵前からの付き合いだったそうで、項伯は張良に恩義があって彼の命だけは助けようとしての行動だったという。




だがご存知のように劉邦陣営にいた張良項羽がすぐにも攻撃してくると知ると、項羽に詫びを入れ全面降伏するよう劉邦を説得。




劉邦は項伯の家との縁談を約束し、項伯を半ば無理やりに味方に引き入れる。そして、項伯は劉邦の事を項羽に取りなすことを約束してしまう。




項伯の「沛公(劉邦)が先に関中を落としてなかったら、貴方(項羽)も関中に入れなかったのでは?大功がある人物を攻撃しては世間から信用されません。沛公の事は攻撃するのではなく厚遇してやるべきでは?」という言葉は、裏に張良劉邦がいたとはいえ、項羽自身も気になっていた部分だったのではなかろうか。




軍を危うくしようとしていた(と見えた)宋義はまだしも、実際に功績があった劉邦をも殺してしまったら、誰も項羽のために働こうとはしないだろうし、世間から見れば項羽が功績のあった劉邦に嫉妬や引け目を感じて殺したのだ、不当に関中を独占しようとしているのだ、というように思えるだろう。




項羽は欲が出て戦後処理を考え始めた、という風にも捉える事が出来るのかもしれない。





というわけで、絶体絶命にも思えた劉邦に光明が見え始めたところで次回に続く。