皇帝の暗殺剣

漢書曰「先是李通同母弟申徒臣能為醫、難使、伯升殺之。上恐其怨、不欲與(李)軼相見。軼數請、上乃強見之。軼深達通意、上乃許往、意不安、買半臿佩刀懐之。至通舍、通甚悦、握上手、得半臿刀、謂上曰『一何武也!』上曰『蒼卒時以備不虞耳。』」
(『後漢書』列伝第五、李通伝注引『続漢書』)

王莽時代の末期、南陽の豪族李通は王莽に反旗を翻そうとし、後の光武帝劉秀を抱き込もうと考えた。



そこで一族の李軼をやって連れて来ようとしたが、劉秀は乗り気ではなかった。




というのも、劉秀の兄である劉伯升(劉縯)が李通の異父弟を殺していたというのである。




何やってるんですかお兄さん。






そうなると、劉秀としてはこれは仇討ちのため闇討ちする策略ではないかと警戒するのが当然であり、李通のところに行く前に短剣を買って密かに装備しておいた。



おそらく、腕に装着し、服の袖に隠れるようにしておいたのではないかと思う。



帯剣していても李通に会う時には外していることだろうが、その場でも武器を所持しておこうという算段だろう。




というか、これって刺客の装備なんじゃないだろうか。



もし李通が自分を騙しているなら、自分も李通を刺殺してやるという覚悟だったということだろう。





李通は劉秀と握手したが、そこでこの暗殺用にしか見えない短剣を発見したので「なんと勇ましいことですな」と言ったところ、劉秀は「こんな大変な時代ですから、万が一に備えていただけですよ」と殺意を否定したのだった。





兄のせいで迷惑を受けている弟とも見ることが出来るし、後の世祖皇帝もこの頃は死なばもろとも精神のヤンチャだったと見ることも出来るかもしれないし、李通とのやりとりをヤクザ者同士の腹の探り合いか何かと見ることも出来るかもしれない。