『漢書』王莽伝を読んでみよう:下その19

その18の続き。


魏成大尹李焉與卜者王況謀、況謂焉曰「新室即位以來、民田奴婢不得賣買、數改錢貨、徴發煩數、軍旅騷動、四夷並侵、百姓怨恨、盜賊並起、漢家當復興。君姓李、李音徴、徴火也、當為漢輔。」
因為焉作讖書、言「文帝發忿、居地下趣軍、北告匈奴、南告越人。江中劉信、執敵報怨、復續古先、四年當發軍。江湖有盜、自稱樊王、姓為劉氏、萬人成行、不受赦令、欲動秦・雒陽。十一年當相攻、太白揚光、歳星入東井、其號當行。」又言莽大臣吉凶、各有日期。會合十餘萬言。焉令吏寫其書、吏亡告之。莽遣使者即捕焉、獄治皆死。
(『漢書』巻九十九下、王莽伝下)

魏成大尹の李焉が占い師の王況と謀議し、王況は李焉に言った。
「新王朝は皇帝が即位して以来、民の農地や奴婢を売買することができず、貨幣はしばしば改変され、徴発が何度も起こり、軍隊が騒ぎ、四方の異民族がどれも辺境を犯し、民は恨み、群盗が沸き起こっており、漢王朝が復興すべきであります。あなたの姓は李であり、李とは「徴」の音で、「徴」は火にあたる。火徳の漢王朝を助けるべきです」
そこで王況は李焉のために予言書を作り、その中でこう言った。「文帝は怒り、黄泉の国から軍隊を動かし、北は匈奴に指示し、南は越に指示した。長江の劉信は敵を捕らえ恨みを晴らし、古に戻し、四年にして軍を起こすであろう。長江・洞庭湖の群盗が「樊王」を自称し、姓は劉氏で、万単位の人が集まり、恩赦を受けず、関中や洛陽を動揺させようとしている。十一年にして攻めようとし、太白星が光を放ち、歳星が東井に入り、その号令がいきわたるであろう」
また王莽の大臣たちの末路を言い、それぞれ期日を示していた。合わせて十余万字あった。
李焉は官吏にその書を書き写させたが、その吏が逃げて王莽に通報した。王莽は使者を遣わして李焉を逮捕し、取り調べて皆死んだ。



「李音徴」とは、中国における音階(五音)の一つ「徴」のことだそうだ。「李」という姓は音階では「徴」に当たる(音階の「徴」は「ちょう」ではなく「ち」と読むそうだ)、ということらしい。良く知らないけど。


宛人李通等以圖讖説光武云「劉氏復起、李氏為輔。」
(『後漢書』紀第一上、光武帝紀上)


「劉氏が復興し、李氏が補佐する」というのは若き日の光武帝のそばでも聞こえてきていた予言だそうだ。あるいはこれも王況の「予言」が流れていたものか。




まあ、李氏は各地に多数いたはずなので、当時各地で起こった(起ころうとしていた)劉氏の反乱軍の中で配下に李氏がいなかった集団はまずなかっただろう。


その意味では、まず確実に当たる予言であると言えないこともない。