『漢書』王莽伝を読んでみよう:下その29

その28の続き。


夏、蝗從東方來、蜚蔽天、至長安、入未央宮、縁殿閣。莽發吏民設購賞捕撃。
莽以天下穀貴、欲厭之、為大倉、置衛交戟、名曰「政始掖門」。
流民入關者數十萬人、乃置養贍官稟食之。使者監領、與小吏共盜其稟、飢死者十七八。
先是、莽使中黄門王業領長安市買、賤取於民、民甚患之。業以省費為功、賜爵附城。莽聞城中飢饉、以問業。業曰「皆流民也。」乃市所賣粱飰肉羹、持入視莽、曰「居民食咸如此。」莽信之。
(『漢書』巻九十九下、王莽伝下)

夏、イナゴが東方からやってきて天を覆い、長安に至って未央宮に入り宮殿にまで近寄ってきた。王莽は官吏や民を徴発し、褒賞を出してイナゴを捕えさせた。



王莽は天下の穀物価格が高騰していることから、それを鎮めようとして巨大な倉庫を作った。衛士を置いて守らせ、「政始掖門」と名付けた。



函谷関から入ってくる流民が数十万人おり、王莽は流民を養う官を置いて食料を与えさせた。使者が監督したが、小役人と共に流民に与えるべき食料を横領したため、流民の十分の七、八が餓死した。



これ以前、王莽は中黄門の王業に長安における物品調達を担当させたが、王業は民から不当に安く買い上げたため、民は大変苦しんだ。しかし王業は経費削減の功績を認められて附城の爵位を賜った。
王莽は長安城内における飢饉のことを聞いて王業に尋ねた。王業は「それは皆流民です」と答え、売っていた良質の飯や肉のスープを買って王莽に示し、「元から住んでいる民は皆こういった物を食べています」と言い、王莽はそれを信じた。



流民は飢え死にし、穀物価格は高騰し、更に官吏の横領や徴発。どれを取っても亡国の兆候そのものである。




そして騙される王莽。


王莽自身は真剣に民を助けようとしていたのかもしれないが、いくら清貧で学業にも熱心だったと言っても、所詮は外戚出身で上流階級の人間だったということだろう。一般の民として良いことも悪いこともやってきたような人間と違って、こういう時にはたやすく騙されてしまうのだろう。