終末思想と王佐の器

初、(何)顒見曹操、歎曰「漢家將亡、安天下者必此人也」操以是嘉之。嘗稱「潁川荀紣、王佐之器」
及紣為尚書令、遣人西迎叔父爽、并致顒屍、而葬之爽之冢傍。
(『後漢書』何顒伝)

袁紹の友人としても知られる知性派テロリスト何顒。


彼は「漢はもう滅びる寸前だが、天下を安んじるのは曹操だな」と発言したという。
事実なら曹操の異能、運命を予見したことになるだろう。

皇帝と名士たちの争いである党錮において姓名を変えて潜伏までして皇帝に対して抵抗を貫いた何顒。
彼の曹操評は、「漢は滅ぶ(少なくとも滅びかける)」ことを前提にしているのである。

ということを考えてみると、荀紣評の有名な「王佐の器」という発言も恐ろしい含みがあることになる。

「王佐」の示す「王」とは単なる諸侯ではく、天下の王つまり天子であろう。
しかし、何顒は漢の天下が滅亡の危機に瀕すると考えているから、荀紣が「王佐」する相手たる「王」は漢の天子ではないだろう。
「漢が滅ぼうとした時に新たに天下を安んじる者=新たな天子(=曹操)」を助けるであろう、というのが何顒の「王佐の器」という荀紣評の正体だ。
何顒は荀紣が漢に代わる新王朝樹立を補佐するであろう、と予言しているのである。


漢に対しては不忠極まりない発言と言えよう。
この言葉がいつのものなのか不明だが、おそらくは宦官殺戮、董卓専権よりは前だろう。
だが既に何顒は漢が滅ぶことを見通していた。いや、それを希望していたのかもしれない。


そして、荀紣はそう発言した人間を死後とはいえ厚遇した。
漢家の永続を信じて王朝の立て直しに必死な人間であれば、本来はあまりクローズアップされたくない関係ではなかろうか。

だが荀紣にしろ曹操にしろ、そんな不忠者のはずの何顒に恩を感じたのである。


※あまり真に受けないように。