仲長統『昌言』損益篇を読んでみよう:その1

理乱篇の次は損益篇。



損益篇曰
作有利於時、制有便於物者、可為也。事有乖於數、法有翫於時者、可改也。故行於古有其迹、用於今無其功者、不可不變。變而不如前、易有多所敗者、亦不可不復也。漢之初興、分王子弟、委之以士民之命、假之以殺生之權。於是驕逸自恣、志意無厭。魚肉百姓、以盈其欲。報蒸骨血、以快其情。上有篡叛不軌之姦、下有暴亂殘賊之害。雖藉親屬之恩、蓋源流形埶使之然也。降爵削土、稍稍割奪、卒至於坐食奉祿而已。然其洿穢之行、淫昏之罪、猶尚多焉。故淺其根本、輕其恩義、猶尚假一日之尊、收士民之用。況專之於國、擅之於嗣、豈可鞭笞叱咤、而使唯我所為者乎?時政彫敝、風俗移易、純樸已去、智惠已來。出於禮制之防、放於嗜欲之域久矣、固不可授之以柄、假之以資者也。是故收其奕世之權、校其從橫之埶、善者早登、否者早去、故下土無壅滞之士、國朝無專貴之人。此變之善、可遂行者也。
(『後漢書』列伝第三十九、仲長統伝)

制度がその時代に利便があるなら、作るべきだ。法令が時宜に合わないなら、改めるべきだ。古においては業績があっても今は効能が無いのであれば、変えずにはいられない。変えて以前のようにできず、弊害が多いというなら、元に戻さないではいられない。



漢が起こった当初、子弟を王にし、彼らの土地と民、生殺与奪の権を委ねた。それによって彼ら王は驕慢になり好き放題するようになり、民を食い物にし、私欲を満たし、血縁者を姦淫して気持ちいい思いをした。上には反乱を起こそうという不逞な野望があり、下には残虐な行いがあった。親族関係の恩義があったとはいえ、そういった形勢がそうさせたのである。



その後、爵位や土地を削り、遂には座して収入を得るだけの存在となったが、それでも犯罪や姦淫はなお多かった。恩義を浅くしてもなお、かつての高い地位を借りて民から収奪するのである。まして、国を占有して代々継承できるなら、どうして叱咤したからといって天子の言う事を聞かせられるだろうか?



政治はすたれ、世の風潮は悪い方に変わり、純朴な時代ではなく、悪知恵が幅を利かす時代になっている。礼制によって防げるという時代は去り、私欲を好きにするという域になっている。権力や資産を渡すべきではないのだ。



代々の権力を回収し、好き勝手を止め、善き者が早く登用され、そうでない者はすぐ放逐されるようになれば、下に有用な人物が滞留する事はなくなり、朝廷は権力を独占する者がいなくなるだろう。これは行うべき良い変更である。






損益篇では、まず制度を変えるべき時に変える事について説く。



漢の諸侯王の制度を批判的に総括し、最後には優れた人物を登用すべきことを述べる。



人材登用については曹操のいわゆる唯才に通じる、あるいはそれを念頭に置いた可能性もありそうだが、その一方で諸侯王に巨大な国と権力を渡した事や朝廷で権力を独占する存在を明らかに批判しており、魏公・丞相となっている人が見たら批判の文章に見えるのではなかろうか、とも思う。