名を如何せん

「虞美人」と呼ばれる人物がいる。



かの有名な項羽の寵姫と思われる人物である。



この人物は、『史記』においては以下の有名な場面に出てくる。


項王軍壁垓下、兵少食盡、漢軍及諸侯兵圍之數重。
夜聞漢軍四面皆楚歌、項王乃大驚曰「漢皆已得楚乎?是何楚人之多也!」
項王則夜起、飲帳中。有美人名虞、常幸從。駿馬名騅、常騎之。於是項王乃悲歌忼慨、自為詩曰「力拔山兮氣蓋世、時不利兮騅不逝。騅不逝兮可柰何、虞兮虞兮柰若何!」歌數闋、美人和之。項王泣數行下、左右皆泣、莫能仰視。
(『史記』巻七、項羽本紀)


ここで注目してもらいたいのは「名虞」というところである。この項羽の寵姫、「虞」というのは「名」であると『史記』は言っているのだ。




これはどういう事か。



史記』などにおいて、多くの場合官名と姓や名を表記する際、「姓+官名」か、「官名+名」という順番になっている場合が多い。



例えば、丞相となった陳平の事を『史記』では「陳丞相」や「丞相平」と表記したりしている。




これを項羽の寵姫「虞」に照らし合わせてみると、「美人」というのは一種の称号、官名ではないかと思われる。



という事は、「官名+名」つまり「美人虞」と呼称すべきではないのか。





これからは「虞美人」ではなく「美人虞」と呼ぶのが世間の潮流!という事にしておこう。*1





*1:漢書』項籍伝では「美人姓虞氏」となっているのは秘密だ。