『漢書』王莽伝を読んでみよう:上その20

その19の続き。


此皆上世之所鮮、禹稷之所難、而公包其終始、一以貫之、可謂備矣!是以三年之間、化行如神、嘉瑞疊累、豈非陛下知人之效、得賢之致哉!故非獨君之受命也、臣之生亦不虚矣。是以伯禹錫玄圭、周公受郊祀、蓋以達天之使、不敢擅天之功也。揆公徳行、為天下紀。觀公功勳、為萬世基。基成而賞不配、紀立而襃不副、誠非所以厚國家、順天心也。
高皇帝襃賞元功、相國蕭何邑戸既倍、又蒙殊禮、奏事不名、入殿不趨、封其親屬十有餘人。樂善無厭、班賞亡遴、苟有一策、即必爵之、是故公孫戎位在充郎、選繇旄頭、壹明樊噲、封二千戸。孝文皇帝襃賞絳侯、益封萬戸、賜黄金五千斤。孝武皇帝卹錄軍功、裂三萬戸以封衛青、青子三人、或在繈褓、皆為通侯。孝宣皇帝顯著霍光、筯戸命疇、封者三人、延及兄孫。夫絳侯即因漢藩之固、杖朱虛之鯁、依諸將之遞、據相扶之勢、其事雖醜、要不能遂。霍光即席常任之重、乗大勝之威、未嘗遭時不行、陷假離朝、朝之執事、亡非同類、割斷歴久、統政曠世、雖曰有功、所因亦易、然猶有計策不審過徴之累。及至青・戎、摽末之功、一言之勞、然猶皆蒙丘山之賞。課功絳・霍、造之與因也。比於青・戎、地之與天也。而公又有宰治之效、乃當上與伯禹・周公等盛齊隆、兼其襃賞、豈特與若云者同日而論哉?然曾不得蒙青等之厚、臣誠惑之!
(『漢書』巻九十九上、王莽伝上)

これらは上古ですら実例の少ないことであり、禹や后稷ですら難しいところですが、安漢公は終始一貫して真心によって貫かれており、全て備わっていると言えましょう。ただ君主が天命を受けたのみならず、私どもの人生も虚ろなものにならずに済んだのです。



(平帝の摂政となってから)三年の間、神業のごとく世間を教化し、瑞祥は畳み掛けるように多く出現しました。陛下が任せるべき人物を知り、賢者を任命したお蔭に違いありません!禹は治水の褒賞を受け取り、周公旦は天子と同等の祭祀を受けました。これはおそらく天が素晴らしい人材を送り込み、王者はその人材を自分のためだけに使わず人々のために使ったためなのです。安漢公の徳行を見るに、天下の規範となるべきものと思います。安漢公の功績を見るに、とこしえに基礎となるべきものと思います。基礎となるべきでありながら恩賞が十分でなく、規範となるべきでありながら褒賞が不足するのは、全くもって、王朝を安定させ、天の意思に従うものとは申せません。



高皇帝(高祖劉邦)が功臣たちを褒賞した際、相国蕭何は領土だけでも普通の倍でありましたが、その上に上奏の際に名前を書かない、殿中でも小走りで移動しなくてもよい、といった特別な恩典を与えられ、親族十数人が封爵されました。善行を楽しみ、恩賞をけちけちすることはなく、一つでも良い献策があれば必ず爵位を与えたのです。それゆえ公孫戎は郎官でしかありませんでしたが樊噲が反乱したという風聞を否定した功績で二千戸に封じられました。
文帝は絳侯周勃を一万戸加増し金五千斤を下賜しました。
武帝は軍功に対して恩賞を与え、衛青の子三人をまだオムツを使う幼児でありながら列侯にしました。
宣帝は霍光を顕彰し、領土を加増し相続税免除を与え、三人を封建し、兄の孫にも恩賞が及びました。
周勃は漢王朝の藩屏の堅固さを頼りにし、朱虚侯劉章の硬骨を恃み、諸将が呂氏を取り囲んでいたことに依拠し、お互い助け合う体制に助けられたので、呂氏が醜い心を持っていてもその企みを遂げられなかったのです。
霍光はいきなり常任の重責の地位に就き、大勝した勢いに乗り、上手くいかない時期や讒言を受けて朝廷を離れることなどは無く、朝廷には同じ気持ちの者しかおらず、長い間政治を壟断しましたので、功績があるとはいっても、難易度は低かったのです。それでもなお人を見る目を誤り昌邑王を皇帝に立てるという失敗がありました。
衛青・公孫戎のような軍功や一言の献策による功績でも恩賞で封建されました。安漢公と周勃や霍光とを比べると、新たに作り出したことと周囲の情勢に頼ったという違いがあります。衛青や公孫戎と比べると、天と地ほどの差があります。
そして安漢公には宰相としての実績があり、禹や周公旦とも肩を並べるほど隆盛し、その恩賞を兼ねるほどのものがあります。どうしてこれまで語ってきた周勃・霍光・衛青・公孫戎らと一緒にできましょうか。それなのに衛青ほどの手厚い恩賞を受けていないことが、私は不思議でなりません!



ここで言っているのはつまり「安漢公(王莽)は周勃・霍光よりも困難な状況でそれ以上の結果を出している。それにこれまでは単なる軍功や小さな功績でさえ大きな恩賞が与えられているのに、安漢公はそれほどの功績にもかかわらず恩賞が少なすぎる」ということのようだ。




王莽も外戚という一種恵まれた環境ありきであるような気もするが、信者からはこう見えるということなのかもしれない。無論、外戚なら常にイージーモードというわけでもないが。