お食事券

秋七月、詔曰「吏受所監臨、以飲食免、重。受財物、賤買貴賣、論輕。廷尉與丞相更議著令。」
廷尉信謹與丞相議曰、「吏及諸有秩受其官屬所監・所治・所行・所將、其與飲食計償費、勿論。
它物、若買故賤、賣故貴、皆坐臧為盜、沒入臧縣官。吏遷徙免罷、受其故官屬所將監治送財物、奪爵為士伍、免之。無爵、罰金二斤、令沒入所受。有能捕告、畀其所受臧。」
(『漢書』巻五、景帝紀、景帝前元年)

漢の景帝即位直後の事。


「官吏が自分で管理・監督している飲食物を自分で消費しただけで罷免される今の律令は厳しくね?逆に、飲食物以外の財物を管理・監督しているときに安く買い上げて高く売って利益を得た場合の罰則が軽すぎね?というわけで廷尉と丞相はその辺良く考えて律令改正するように」


景帝はこんな命令を出した。



どうやら、当時は官僚が自分の管理下にある飲食物を自分で消費することが厳しく制限されていたらしい。

おそらくだが、特に認められるような時以外の消費が厳禁されていたのだろう。



それ自体は我々の感覚で言えば当然と言えば当然だが、後段と併せて考えるとちょっと変わってくる。


どうやら、飲食物以外について権力を利用して安く買い上げて高く売り払う、そしてその差益を官吏が受け取る、という汚職事件に対する罰則が、飲食と比べて軽かったようなのだ。




そこで大臣たちはこんな改正案を出し、律令は改正された。



「官吏が自分の監督下の飲食物を消費しても、消費相当額を補填すれば罰を受けなくてよい。

 安く買い上げて高く売り払うことで差益を得た場合、賄賂を得たものと同等の罪とし、その差益は没収する。
 官吏がその官を遷るとき、その官の監督下にあった財物を持っていった場合には爵位を剥奪し、爵位を持たない者の場合は金二斤の罰金を科し、持って行った財物は没収する。

 この犯罪を摘発し捕まえた者には、汚職官吏が受けていた差益を褒賞として与える。」






官吏が離任の際に元の官府にあったものをちょろまかしていくというのは、この時代もあったことなのだろう。


実際にこれがどこまで守られたのかはよくわからないが、飲食物管理への厳しさが緩められる反面、それ以外に対しては厳しくなるというのはちょっと興味深い。