蔡君仲、汝南人。王莽亂、人相食。君仲取桑椹、赤鄢異器。賊問所以、君仲云「鄢與母、赤自食。」賊義之、遺鹽二斗、受而不食。
(『東観漢記』蔡順伝)
王莽時代から後漢初期の人である蔡順は、王莽時代に食糧にも事欠くほど困窮したとき、桑の実を黒いものと赤いものに選り分けて採取した。
そこに出くわした賊が「お前何をしてるんだ」と聞いてみたところ、「黒いのは母に与え、赤いのを自分で食べようと思いまして」と答えた。
桑は未熟なうちは赤く、食べられるくらい熟すると黒くなるそうなので、食べるのに適したものだけを母に食べさせようという孝心ということである。
賊もそんな彼の孝心には感銘を受け、自分たちが持っていた塩二斗を彼に与えてやった。これで母ちゃんに親孝行してやれ!みたいな感じなのだと思う。
心のすさみきった賊でさえ、彼の純粋な孝心の前では人が変わるのであろう。
そして蔡順はその賊からもらった塩は受け取ったが食べようとはしなかった、という。
孔丘先生は「盗泉」という名前の泉から水を飲むことさえしないくらい高いモラルを持っていたという話に通じることなのだろう。
賊から受け取ったモノは手を付ける気はない!けがらわしい!ということなのだと思う。
身も蓋もないというか何というか・・・。
微妙な表情になってしまうエピソードである。