さかのぼり前漢情勢27

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漢の武帝元号、元鼎の前は元狩。

この元号は元年に「白麟」を捕らえた事に由来する。

「麟」といえば聖天子出現がフラグになって現れるという幻獣。天子ではない孔子は出現に絶望したが、武帝にとっては吉兆である。武帝が聖天子であることを証明しているからだ。


この年、かの淮南王劉安らの謀反があったり、立太子が行われたりしているが、それよりも封禅まで続く武帝の聖天子ロードの一里塚として、「白麟」捕獲が大きな意味を持っている。


その後、武帝匈奴との戦を続けている。
戦そのものは李広の自殺などの事件が起こりつつも衛青、霍去病が匈奴に打撃を与え続けていたが、漢の財政にも打撃を与え続けていた。

用度不足、請收銀錫造白金及皮幣以足用。初算緡錢。
(『漢書武帝紀、元狩四年)

白金とは銀と錫の合金で、高額貨幣の一種である。
おそらく原価よりも高い値を付け、下賜などで強制的に与えていったのだろう。
皮幣は鹿の皮に刺繍した品で、これをなんと銭40万枚に相当するものとし、諸侯が璧を献上する際に使うことを強制した。
つまりは、どちらも安い原価をもって高額なものとし、諸侯などから銭を搾り取る錬金術なのである。

ただし、案の定というか偽造が横行したらしいが。
結局錬金術は等価交換、美味い話は無いである。

また、算緡とは商人に対する資産税ということらしい。
商品や元手へ課税するわけで、税収増と商業活動の停滞、および商業の地下活動化という影響が考えられる。
実は中々大胆な政策じゃないかと思われる。それだけ財政面がピンチであるということの表れなのだろう。

有司言三銖錢輕、輕錢易作姦詐、乃更請郡國鑄五銖錢、周郭其質、令不可得摩取鋊。
(『漢書』食貨志下)

更に、元狩五年には有名な五銖銭が誕生している。
これまでは軽量で質が悪い銭を通用させていたために偽造が横行したと反省し、2/3増量したのである。
これは基本的には好判断だったと言ってよいだろう。

その後も銭の盗鋳と取り締まりはイタチゴッコを繰り返しているが、五銖銭というスタンダードの確立は貨幣史に残る重要なポイントだったはずである。


この時代、戦争とそれによる財政危機を契機として、経済面、税法面で大きな変化が起こっている。
良いか悪いかは別として、時代が変わってきているのだ。
破綻が迫っているとも言えるのだが。