徙戎論その7

http://d.hatena.ne.jp/T_S/20110602/1306940568の続き。

答曰、羌戎狡猾、擅相號署、攻城野戰、傷害牧守、連兵聚眾、載離寒暑矣。而今異類瓦解、同種土崩、老幼繫虜、丁壯降散、禽離獸迸、不能相一。子以此等為尚挾餘資、悔惡反善、懷我徳惠而來柔附乎?將勢窮道盡、智力倶困、懼我兵誅以至於此乎?曰無有餘力、勢窮道盡故也。然則我能制其短長之命、而令其進退由己矣。夫樂其業者不易事、安其居者無遷志。方其自疑危懼、畏怖促遽、故可制以兵威、使之左右無違也。迨其死亡散流、離逷未鳩、與關中之人、戸皆為讎、故可遐遷遠處、令其心不懷土也。夫聖賢之謀事也、為之於未有、理之於未亂、道不著而平、徳不顯而成。其次則能轉禍為福、因敗為功、値困必濟、遇否能通。今子遭弊事之終而不圖更制之始、愛易轍之勤而得覆車之軌、何哉?且關中之人百餘萬口、率其少多、戎狄居半、處之與遷、必須口實。若有窮乏糝粒不繼者、故當傾關中之穀以全其生生之計、必無擠於溝壑而不為侵掠之害也。今我遷之、傳食而至、附其種族、自使相贍、而秦地之人得其半穀、此為濟行者以廩糧、遺居者以積倉、𥶡關中之逼、去盜賊之原、除旦夕之損、建終年之益。若憚暫舉之小勞、而忘永逸之弘策。惜日月之煩苦、而遺累世之寇敵、非所謂能開物成務、創業垂統、崇基拓跡、謀及子孫者也。

答えはこうです。

羌・戎は狡猾で、勝手に称号や官位を任命し、城を攻めたり野戦を行って州刺史や太守を倒しましたが、兵を連ねて集まり、暑さや寒さを身にうけておりました。
今や人種の違う同士の連合は瓦解、同じ人種もバラバラになり、非戦闘員は捕虜となり戦闘員は降伏したり逃亡したりしており、もはや一体にはなれません。
あなたはそんな連中をまだ余裕があるのに過ちを悔い改め、懐柔されて降伏したのだと思いますか?それとも勢力が衰えこちらに征伐されるのを恐れて降伏したのだと思いますか?もちろん、余力が無くなり、勢力が衰えたからに決まってます。
つまり、こちらが羌族たちの命運を左右でき、進退を命じることができるのです。
そもそも、事業を楽しむ者は事を変えようとはしないし、自分の居所に安んずる者はそこを動こうとはしないものです。自ら危険であると疑いを抱いているからこそ、武威をもって制御することができるのです。
聖人、賢人のはかりごとというものは、まだ起こっていないうちに対策を実行するので、徳はいつのまにやら完成しているのです。その次に良いのが災いを転じて福となし、敗北により功を立て、困窮しているのを救済することです。
今、あなたが戦争の終結という時点に立って新たな時代のための対策をせず、古の規範とすべき方法を行う労を惜しんで後漢の破滅に至る政策を取ろうとするのはなぜでしょうか?
また関中の人民は人口百万人余で、半分が戎・狄と思われますが、移住させるには食料が必要です。もし困窮する者があったときは、関中の備蓄を総動員して皆を生き延びさせれば、きっと侵略の害を為すことはなくなるでしょう。
移住させた後は本来の同族に食料供給させるので、関中の食料消費は半減することになりますし、関中の過密は解消され、盗賊の発生源も消えます。もしこの労を惜しむならば、この永続する有効策を忘れて将来に禍根を残すことになります。
これは次の世代のための政策とは言えません。


江統さんの反論(自作自演)。

退けた四夷は劣勢だったから降伏したのであり、今がチャンスだ、と述べる。
更に、移住の時は食料を供給しなければいけないが、その後は関中の食料を使わなくて良くなるのでお得だ、とも言う。


正直、この部分はかなり怪しいと思うが。
軍事的には可能だったとしても、食料供給については机上の空論になりそうな気がする。食料生産に携わっていた者もいただろうから、移住させれば結局生産力自体が大きく減少するだろう。
まああれだ、賃金の安い外国人労働者を突然全廃できるものだろうか、という話のようなものかもしれない。


とにかく、江統さんによれば四夷の故地への遠徙は中華にとっていいことづくめだ、というのである。