上上から下下まで

漢書』の構成で一番特徴的なのは、「古今人表」ではないだろうか。
これは伏犧から項羽に至るまでの、漢以前の人物名を「上上、上中、上下、中上、中中、中下、下上、下中、下下」の9段階評価に割り振って列記したもの。
ちなみに「上上」は「聖人」、「上中」は「仁人」、「上下」は「智人」、そして「下下」は「愚人」とされている。

古来、この表はあまり良い評価をされてきていないようなのだが、私などは色々な意味でとても面白く感じている。
なにせ、この表があることで、『漢書』は太古からのすべての歴史のダイジェストも含んでいると言えないこともないのだ。
人物とその評価だけとはいえ、『漢書』は『史記』と同じように通史であろうとしていたということが分かる。『漢書』を断代史ととらえるのは、外形的にはともかく編者の理念としては誤りだろう。

それと、「上上」=聖人と評価された人物も面白い。
伏犧
神農
黃帝
少昊
顓頊
帝嚳
帝堯
帝舜
帝禹(夏)
帝湯(殷)
文王(周)
武王(周)
周公
仲尼(孔子
以上、文王、周公と孔子以外は全て天子である。文王は受命の君であり、周公にも即位説があることを考えると、孔子だけが天子でないのに聖人と言われていることになる。当時の人々にとって、「聖人」というのは「偉大な徳を持って天下を見事に治める人」というイメージなのだということ、及び孔子はその一員だとみなされていたということになるだろう。
また、こういう「聖人」という語を、後漢末に董昭が曹操相手に使ったということの持つ意味は意外に大きい。