徙戎論その9

http://d.hatena.ne.jp/T_S/20110605/1307199754の続き。

夫為邦者、患不在貧而在不均、憂不在寡而在不安。以四海之廣、士庶之富、豈須夷虜在内、然後取足哉!此等皆可申諭發遣、還其本域、慰彼羇旅懷土之思、釋我華夏纖介之憂。惠此中國、以綏四方、徳施永世、於計為長。
不能用。未及十年、而夷狄亂華、時服其深識。


そもそも国を治める者は、貧しさではなく不均一さについて悩み、少ないことではなく安定しないことを憂うものです。広い四海、人々の富があるというのに、どうして四夷が内地に居ないと自給もできないということがあるでしょうか?
四夷にはこのことを申し述べてそれぞれの本来の領域に帰還させ、彼らの故郷を懐かしむ気持ちを慰めるとともに中華にとっての小さな憂いを絶つべきです。中国にとって恵みとなって四方を安んじ、陛下の徳は永遠に行き渡ることでしょう。計略として優れたものと言えます。

皇帝はこれを用いることが出来なかった。
十年もしないうちに四夷の反乱が起こったので、人々は江統の見識の深さに感じ入った。


以上。

江統さんのまとめとして、「大体さー、為政者っていうのは食料や物資が足りないと悩むんじゃなくて、偏在化と不安定を心配するものじゃなっすか?このままじゃ四夷を軍事力や生産力として使えても、いつメルトダウンするかわかったものじゃないっていう不安定さがあるじゃないっすか?もう全部廃炉にしちゃいましょうよ!」ってことが語られる。

結局この策は用いられることなく終わったが、数年の内に例の永嘉の乱が起こったので、「江統△」というレスで溢れたのだという。



前にも書いたように、現状認識としてはかなり鋭いのだと思うが、解決策がかなり無理押しな感じがする。
四夷の内徙は寒冷化などの影響もある筈で、「故郷に帰してあげる」とか言われたところで素直に喜ぶ者はほとんどいないだろう。
空っぽになった故地にはそれまでいなかった鮮卑あたりがいたりするわけだし。


もう少し穏当な方法があれば採用されたのかもしれないが、リミットはあと数年だった(正確なところは時間遡行者ではない彼らには分からないが)ということを考えると、江統さんにしてみれば本当は「無茶苦茶に思えても、もうこれしか方法が無い!俺たちにはもう時間が無いんだよ!!」っていう心境だったのかもしれない。