部下の心境

於是項王乃欲東渡烏江。烏江亭長檥船待、謂項王曰「江東雖小、地方千里、衆數十萬人、亦足王也。願大王急渡。今獨臣有船、漢軍至、無以渡。」項王笑曰「天之亡我、我何渡為!且籍與江東子弟八千人渡江而西、今無一人還、縱江東父兄憐而王我、我何面目見之?縱彼不言、籍獨不愧於心乎?」乃謂亭長曰「吾知公長者。吾騎此馬五歳、所當無敵、嘗一日行千里、不忍殺之、以賜公。」
(『史記』巻七、項羽本紀)


この話は割と有名なのだろうが、劉邦の四面楚歌から脱出して江東へ行こうとしていたはずの項羽は、船を用意して待っていた烏江亭長に乗船を断り、馬まで手放している。



それまでの項羽の行動は常識的に考えたら江東へ逃げて再起を図ろうというものとしか思えず、亭長もそう解釈して船を用意していたんだろうに、それを断った上に馬を手放すという劉邦の追っ手に自ら捕捉されに行くような、傍目には狂気にも思える行動に出ている。




この亭長も項羽の協力者と劉邦側に知られれば普通に命の危機だろうし、かなり危険を冒していると思うのだが、その命がけでの行動を、江東に逃げようとしていたはずの項羽自身に断られた時、どういう心境だったんだろうか。



またここまでずっと付き従っていた騎兵たちも、主が自分から死にに行くような事を言い出したのを聞いて、冷静に受け入れる事ができたのだろうか。




昔から気になっている。