理不尽な話

初、李夫人病篤、上自臨候之。夫人蒙被謝曰「妾久寢病、形貌毀壞、不可以見帝。願以王及兄弟為託。」上曰「夫人病甚、殆將不起、一見我屬託王及兄弟、豈不快哉?」夫人曰「婦人貌不修飾、不見君父。妾不敢以燕媠見帝。」上曰「夫人弟一見我、將加賜千金、而予兄弟尊官。」夫人曰「尊官在帝、不在一見。」上復言欲必見之、夫人遂轉郷歔欷而不復言。於是上不説而起。
夫人姊妹讓之曰「貴人獨不可一見上屬託兄弟邪?何為恨上如此?」夫人曰「所以不欲見帝者、乃欲以深託兄弟也。我以容貌之好、得從微賤愛幸於上。夫以色事人者、色衰而愛㢮、愛㢮則恩絶。上所以攣攣顧念我者、乃以平生容貌也。今見我毀壞、顔色非故、必畏惡吐棄我、意尚肯復追思閔錄其兄弟哉!」及夫人卒、上以后禮葬焉。其後、上以夫人兄李廣利為貳師將軍、封海西侯、延年為協律都尉。
(『漢書』巻九十七上、外戚伝上、孝武李夫人)


かの李広利の妹である李夫人は、病で死が間近という時に武帝の見舞いを受けた。



だが李夫人は武帝が「一目顔を見せてくれ」と言っても、「病で容貌の衰えた顔を見せられない」と答え、顔を見せようとしない。「一目見られたら千金を与えよう。お前の兄弟を高官にしてやろう」と言っても見せない。ついに武帝は気分を害して帰ってしまった。




李夫人の姉妹は「どうして一目顔を見せて兄弟を託す事が出来なかったのです?」と李夫人を責めるが、李夫人は「兄弟を託す気持ちがあるからこそ、そうしたのです。私は容貌によって今の地位を得た者。容貌が衰えれば愛情も失われます。今の衰えた容貌を見れば、陛下は私への気持ちも失せてしまうでしょう。そうなったら兄弟の事を気に掛けるでしょうか」と答えた。



果たして武帝の思慕の情は衰えず、李夫人の兄弟李広利や李延年は高官になった。




だが、よくよく考えてみると、李延年は一族皆殺し、李広利も結局は漢に戻れぬ身となっている。


武帝の思慕の情も結局は李夫人の目論見通りにはならなかった。



李夫人は容貌の衰えた顔を見せても見せなくても、李さん一家の衰亡を止める事はできなかった、という理不尽な話であった。