『史記』項羽本紀を読んでみよう:その36

その35(http://d.hatena.ne.jp/T_S/20180925/1537801402)の続き。





項王聞淮陰侯已舉河北、破齊・趙、且欲撃楚、乃使龍且往撃之。淮陰侯與戰、騎將灌嬰撃之大破楚軍、殺龍且。韓信因自立為齊王。
項王聞龍且軍破則恐、使盱台人武渉往説淮陰侯。淮陰侯弗聽。
是時、彭越復反、下梁地、絶楚糧。項王乃謂海春侯大司馬曹咎等曰「謹守成皋、則漢欲挑戰、慎勿與戰、毋令得東而已。我十五日必誅彭越、定梁地、復從將軍。」乃東、行撃陳留・外黄。
(『史記』巻七、項羽本紀)

項羽韓信が斉をもわが物にしようとしていることを知って楚将竜且を派遣。しかし竜且は韓信らに破れて死んだ。



楚已亡龍且、項王恐、使盱眙人武渉往説齊王信曰「天下共苦秦久矣、相與勠力撃秦。秦已破、計功割地、分土而王之、以休士卒。今漢王復興兵而東、侵人之分、奪人之地、已破三秦、引兵出關、收諸侯之兵以東撃楚、其意非盡吞天下者不休、其不知厭足如是甚也。且漢王不可必、身居項王掌握中數矣、項王憐而活之、然得脱、輒倍約、復撃項王、其不可親信如此。今足下雖自以與漢王為厚交、為之盡力用兵、終為之所禽矣。足下所以得須臾至今者、以項王尚存也。當今二王之事、權在足下。足下右投則漢王勝、左投則項王勝。項王今日亡、則次取足下。足下與項王有故、何不反漢與楚連和、參分天下王之?今釋此時、而自必於漢以撃楚、且為智者固若此乎!」
韓信謝曰「臣事項王、官不過郎中、位不過執戟、言不聽、畫不用、故倍楚而歸漢。漢王授我上將軍印、予我數萬衆、解衣衣我、推食食我、言聽計用、故吾得以至於此。夫人深親信我、我倍之不祥、雖死不易。幸為信謝項王!」
(『史記』巻九十二、淮陰侯列伝)


項羽は焦って斉王を名乗って劉邦との間に多少摩擦を生じていた韓信を説得して味方に引き込もうとする。


その使者武渉は、劉邦は信用できないヤツで、項羽が破れたら今度は韓信がやられる番だぞ、と持ち掛ける。



韓信の行く末を知っている者からしたら真実っぽいが、当時の総大将を殺して地位を奪ったり、懐王の約束に背いたり、懐王を殺したりといった事をした信用できそうにない王から言われても反応に困るというところだろう。



また、「項羽が破れたら今度は韓信がやられる番」というのも、「劉邦が破れたら今度は韓信がやられる番」とも言えるわけで、韓信からすると項羽よりは劉邦の方がまだ信用できると同時に、まだ敵としても与しやすいと思っていた可能性もあるだろう。





なんにせよ、韓信説得も不発に終わった項羽。とにかく背後に迫る危機(彭越)の対処のため、自らが彭越討伐に向かい、対劉邦は配下の大司馬曹咎らに任せた。


「15日だけ耐えろ。すぐ戻ってくるから」と命じて。



フラグじゃないかって?そうです。