『史記』項羽本紀を読んでみよう:その19

その18(http://d.hatena.ne.jp/T_S/20180905/1536073982)の続き。





於是張良至軍門、見樊噲。樊噲曰「今日之事何如?」良曰「甚急。今者項莊拔劍舞、其意常在沛公也。」噲曰「此迫矣。臣請入、與之同命。」
噲即帯劍擁盾入軍門。交戟之衛士欲止不内、樊噲側其盾以撞、衛士仆地、噲遂入、披帷西嚮立、瞋目視項王、頭髮上指、目眥盡裂。項王按劍而跽曰「客何為者?」張良曰「沛公之參乗樊噲者也。」項王曰「壯士、賜之卮酒。」則與斗卮酒。噲拜謝、起、立而飲之。項王曰「賜之彘肩。」則與一生彘肩。樊噲覆其盾於地、加彘肩上、拔劍切而啗之。項王曰「壯士,能復飲乎?」樊噲曰「臣死且不避、卮酒安足辭!夫秦王有虎狼之心、殺人如不能舉、刑人如恐不勝、天下皆叛之。懷王與諸將約曰『先破秦入咸陽者王之』。今沛公先破秦入咸陽、豪毛不敢有所近、封閉宮室、還軍霸上、以待大王來。故遣將守關者、備他盜出入與非常也。勞苦而功高如此、未有封侯之賞、而聽細説、欲誅有功之人。此亡秦之續耳、竊為大王不取也。」項王未有以應、曰「坐。」樊噲從良坐。
坐須臾、沛公起如廁、因招樊噲出。
(『史記』巻七、項羽本紀)


項荘が劉邦を殺そうとするのを項伯が止める、という状況に対し、張良劉邦の腹心(正妻呂氏の妹を妻にしている)樊噲を呼び寄せた。



樊噲は衛士をシールドバッシュで叩き伏せて殺気を孕んだ宴席に闖入。



当然身構える項羽。それから嫌がらせなのか余興なのか、樊噲に酒を一斗与えてみたり、生の豚肉を食わせてみたりする。



まあ、本来処刑されても仕方ない乱入者なので仕方ない。項羽の処置は寛大なのかもしれない。




だがここで樊噲のターン!




「秦は畜生だったから天下が背きました。楚の懐王は「先に秦を破った者を王にする」と言っていたのに、その通りの事をした沛公(劉邦)は王どころかまだ侯にもなっていないというのに、下らない告げ口を真に受け、懐王との約束も守らずに殺そうとするのですか。これは畜生の秦の後を継ぐようなもので、偉大な王項羽様ほどの人がする事とは思えません」



これには項羽も絶句。



おそらくだが、この内容こそ項羽劉邦殺害を躊躇していた理由そのものじゃないかという気がする。




諸侯の中でも事実上のトップの地位を築いて関中に入るまでになってみると、今度はその地位を守る事を考えなければいけなくなる。



約束を守っていないとか、信用できないといった評判になるのを避けようとしたのではないか。





それを直球で指摘されてしまったから、絶句するしかなかったのではないだろうか。