司馬遷の書を読んでみようファイナル

その14(http://d.hatena.ne.jp/T_S/20160629/1467129692)の少しだけ続き。



補足である。




司馬遷の任安への手紙は、ここまで読んだならご理解いただいたと思うが、任安が獄中にあることを知った司馬遷が出したもので、任安から司馬遷への「賢明な士大夫を推挙すべし」という求めがあったことに対する返答という形を取っていた。




司馬遷からの返答の中ではしきりに「士大夫としての誇りを保つためには自殺しよう」と勧めている。


これは一見すると士大夫の推挙とはあまり関係なさそうに思えるが、もし「推挙」が暗に「自分をまた取り立ててもらえるようにとりなしてくれ」という事実上の助命嘆願だとすれば全てが繋がる。


司馬遷は「助命嘆願をしても自分にはそのような発言力は無いし、誇りある士大夫ならそんなことをせずに自ら誇りある自決をすべき」と言っているのだろう。



そして司馬遷はそれだけではなく、「僕がちょん切られた時はどうでしたかね・・・」などと自分の時を思い出させているので、任安が自分への弁護などをしてくれなかったことを良く思っていないのだろう、と考えられる。





というわけで、『文選』に収録され、司馬遷の『史記』執筆動機が吐露された名文といった体で現代でもしばしば読まれているこの手紙の内容は、「処刑間際の知り合いに対して助命嘆願を拒絶し、その上で過去の自分への不作為をチクチク責める」といったもの、という印象であった。