韓信の劉邦評

上問曰「如我能將幾何?」(韓)信曰「陛下不過能將十萬。」上曰「於君何如?」曰「臣多多而益善耳。」上笑曰「多多益善、何為為我禽?」信曰「陛下不能將兵、而善將將、此乃信之所以為陛下禽也。且陛下所謂天授、非人力也。」
(『史記』巻九十二、淮陰侯列伝)

漢の高祖劉邦韓信のいわゆる「将の将」をめぐるやりとり。





ここで韓信劉邦のことを「十万の兵を率いることができるだけである」と評している。




沛公左司馬曹無傷使人言於項羽曰「沛公欲王關中、使子嬰為相、珍寶盡有之。」項羽大怒曰「旦日饗士卒、為撃破沛公軍!」當是時、項羽兵四十萬、在新豐鴻門、沛公兵十萬、在霸上。
(『史記』巻七、項羽本紀)

春、漢王部五諸侯兵、凡五十六萬人、東伐楚。
(『史記』巻七、項羽本紀)

その「十万の兵を率いることができる」というのは、単に劉邦の能力を測ったということではなく、具体的な過去の実績を見てのことだったのかもしれない。





劉邦は十万の兵を率いて秦を討ち、秦王子嬰を降伏させるに至った。



しかし五十六万もの兵を率いた際には項羽の反撃を受け、危うく討ち取られるところであった。






このことを思えば、劉邦のことを「十万なら破綻なく率いることができるがそれ以上になるといけない」と評するのは、韓信でなくても当然に思い至ることなのかもしれない。



ただ、それを率直に口にし、しかも自分ならどれだけ多くても大丈夫と言ってのけるのが韓信が余人と異なる点なのだろう。