さよなら牛金

先是、宣帝有寵將牛金、屢有功、宣帝作両口榼、一口盛毒酒、一口盛善酒、自飲善酒、毒酒與金、金飲之即斃。景帝曰「金名將、可大用、云何害之?」宣帝曰「汝忘石瑞『馬後有牛』乎?」
(『宋書』巻二十七、符瑞志上)

晋の宣帝すなわち司馬懿は、自分の配下の将であった牛金を毒殺してしまった。



長男の景帝司馬師が「牛金は名将で有用なのにどうして殺してしまうのです?」と尋ねる。



まあ当然である。



すると司馬懿はこう答えた。




「石の瑞祥を忘れたのか?「馬のあとは牛」と書かれていたのだぞ?」




司馬懿の言う瑞祥とは張掖郡で発見された馬や牛の石像などの謎のオブジェのこと。




この手の不可思議な現象は、伝統的に新王朝の誕生や皇帝の交代などを預言するものとされている。


天子の動向に対して、天がこういった超常現象によって予告する、ということなのだろう。





馬メインで、それらしい文字などもあったことから、司馬懿は自分たち司「馬」氏が天下を取るという予兆と受け取ったということだろう。



当然である。

軍事的に大功を立て、幼帝を盛り立て、もう一人の輔弼の臣曹爽を葬ったとあっては、司馬懿以外に新たな天下人に該当しそうな「馬」などいるわけがないのである。


司馬懿自身も、それを認識していたに違いない。




そう受け取っていたからこそ、司馬懿は「馬のあとは牛」という預言も書かれていたことを無視できないのである。