『史記』と『漢書』と魏相の憶測

賈誼、鼂錯、董仲舒
彼らは前漢の名臣として名高い存在だが、彼らについて『史記』と『漢書』の列伝を読み比べると、あることに気付くだろう*1



それは、彼らの皇帝への上奏文、献策の多くが『史記』ではかなり簡略あるいは無視されていて、『漢書』では長々と引用されていることである。

これは司馬遷と班固の編集方針の違いと言う部分が大きいのだとは思うが、もう一つ、『漢書』の時代の方が参照しやすい資料があったということも考えられると思う。

(魏)相明易經、有師法、好觀漢故事及便宜章奏、以為古今異制、方今務在奉行故事而已。數條漢興已來國家便宜行事、及賢臣賈誼・鼂錯・董仲舒等所言、奏請施行之、・・・(後略)
(『漢書』巻七十四、魏相伝

前漢宣帝の時の名宰相、丞相魏相は漢のこれまでの決定や慣習を守り従って政治を行うべきと考え、過去の政治判断や慣習、そして賈誼・鼂錯・董仲舒といった名臣の上奏文などを箇条書きにし、これを施行するようにと皇帝に要請したというのである。

これは憶測ではあるが、この魏相が編集した名臣上奏文集(仮)を班固は参照することができたからこそ、『漢書』に彼らの上奏文を多数収録できたのかもしれない。

*1:そもそも『史記』に董仲舒の独立した列伝はないが。