シャア・アズナブルの転落

機動戦士ガンダム』にシャア・アズナブルというキャラがいるのはほとんどの人が知っているだろう。

金髪イケメンで謎の仮面の将校。雑魚が冴えない緑色なのに鮮やかな赤いロボット(モビルスーツ)で戦う。
本当は自分の属するジオン公国の主君ザビ家を仇と狙うやんごとなきお方でもある。

しかし、『起動戦士ガンダム』における彼は嘘と敗北と転落の人生しか歩んでいない。


まずシャアは敵である地球連邦軍の新型モビルスーツガンダム」の偵察・奪取・破壊に失敗し、多くの部下を失う。
ここでシャアは上司に対し散った部下に責任を負わせるような発言を繰り返す。

まあここはまだ仕方が無い。ガンダムがシャアや部下の想像を超えたオーバースペックで対処し切れなかった面も強いだろう。

その後、友人だが仇のザビ家の軍人ガルマに拾われるが、ガルマ敗北をお膳立てしてやり、仇討ちに成功する。
シャアの劇中数少ない成功例が仇討ちとはいえ味方のだまし討ちというのはあまりにも悲しい。

シャアはガルマを助けられなかったことで一時干されるが、今度はザビ家の別の女軍人キシリアに取り入り、連邦軍の秘密基地捜索の任に当たる。
ここでもブーンら部下に失敗の責任を被せる言動が目立った。
また、秘密基地ジャブローを発見し潜入するのはいいのだが、部下たちが黒ずくめのいかにもスパイな格好なのに自分だけいつもの赤と金の服装。これはいけない。シャアは発見されて死にたいのだろうか?
指揮官が危険な潜入に同行するのは部隊の士気を高めた部分もあったかもしれないが、これは明らかに逆効果である。
ジャブロー発見は大手柄なんだろうが、この勘違い上司っぷりはかなりのマイナスだろう。せっかくの大チャンスを自分で潰しているに等しい。

宇宙へ出たガンダムを追うようにシャアも宇宙に出て、ガンダムと戦うことになるが、ここでもトクワンやデミトリーなどについていつもの責任回避&なすりつけが発動していた。

失敗続きのシャアだが、ニュータイプララァを連れてきてからは状況が変わる。ララァはものすごい戦闘能力を発揮し、敵艦を数多く撃破。当然上官であり情夫であるシャアも鼻が高かっただろう。

しかし今度は彼自身の能力に疑問符が付くようなシーンを多く目にするようになる。
これまで彼は優秀なパイロットと言われており、劇中でもそれっぽい描写が何度もあった。ガンダムに負けたのは(パイロットのアムロも強いが)ガンダムのスペックゆえだと思っていた。
しかしどうやらそればかりでもなかったらしい。

ガンダムにも匹敵すると思われる新型「ゲルググ」を支給されたシャアだが、ガンダムには歯が立たない。
同等の性能と思われる「ギャン」を使った軍内のライバルであるマ・クベガンダムとの一騎打ちでそれなりに健闘していたのに、である。
ララァには「大佐(シャアのこと)、邪魔です」などと言われ、ついには自分がやられそうになるのをララァがかばって戦死してしまう。

このあたりのシャアははっきり言って惨めである。自分の力不足で信頼できる部下であると同時にかけがえのない女性であるところのララァを失ったのだから。
(女性としてのララァは、ララァアムロと精神的に触れ合い共感した時点で失ったと言ってもいいのかもしれない。シャアはアムロにこの戦いで二度負けたのだ)

全てを失ったシャアはWW2で言えば硫黄島あたりに相当するであろうア・バオア・クーでの戦いに参加し、ニュータイプ専用機「ジオング」に乗り込む。
シャアは奮闘し、ガンダムともこれまでで一番いい勝負を繰り広げたが、やっぱり負ける。
それでも機体を捨ててア・バオア・クー内に入ったら同じく機体を捨ててきたアムロと出会い、白兵戦(チャンバラ)をするのだった。
そして相打ちになるシャア。
せめて身体能力はアムロに勝ってるのかと思いきや、それさえも勝てなかった。相手はほんのちょっと前までヲタ学生だった少年である。

もう地位もプライドも女も全て失ったシャア。残るは復讐しかない。
キシリアを自爆同然の方法で殺し、自らは行方不明になるのであった。


通して見たのは随分前なので多少間違いなどがあるかもしれないが、だいたいこんな顛末だったはずだ。
シャアは劇中では見てて悲惨なくらい失敗や喪失を繰り返している。成功しているのはザビ家への復讐くらいだろう。
だが復讐だけが目的とか、復讐の一環として意図的にサボタージュしてるとかいう風でもない。
中途半端と言っていいかもしれない。
(大体、身分を隠したいならあのいでたちだって明らかに逆効果だ。中途半端な変装である)


なんで人気キャラだったのか不思議に思ったが、考え直してみると、「本当は出来るけど失敗することもある」とか「口先や政治力で世間の荒波を泳ぎきってかっこよくなることだって出来る」みたいなのが我々凡人のささやかなプライドをくすぐるのだろうか、とも思う。

イケメンだけど等身大。それが魅力なのかもしれない。


http://d.hatena.ne.jp/nuryouguda/20090818/1250568173に触発されました。